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能楽研究の基本文献

2004年4月9日〜6月30日

能の研究

能楽史研究の基本文献

総合芸術と呼ばれる能は、演劇・音楽・美術・文学など、さまざまな側面を持っている。したがって、能の研究には、さまざまなアプローチが可能であり、研究の視点によって方法論も異なってくる。

本展示では、「能楽史研究」「伝書研究」「謡曲研究」の3つの視点を取り上げ、それぞれの方法論を知る上で、基本となる文献を紹介する。もちろん、このほかにも重要な文献は数多くあるが、ここで取り上げた文献に触れることによって、他の文献にも自ずと導かれてゆくだろう。

『観世宗家 幽玄の華』(平成4年朝日新聞社)

『岩波講座 能・狂言』(1)「能楽の歴史」

表章・天野文雄著。昭和62年岩波書店。全8巻。能楽の歴史・作品・伝書・演出など、それぞれの研究領域における最近の成果を示す。能楽を研究する際、最初に参照しておきたい文献。本巻は、能楽の通史を解説するとともに、能楽史研究上重要なトピックにも触れている。

『能楽全書』第二巻「能の歴史」

野上豊一郎他著。昭和17年東京創元社(昭和56年綜合新訂版)。綜合新訂版で全7巻。本シリーズは、能楽をさまざまな角度から総合的にとらえた最初の叢書。研究の進展によって、既に乗り越えられた論もあるが、ユニークな視点をもつ論も少なくない。第二巻には、新訂時に追加された『能楽諸家系譜』が載る。

『能楽源流考』

能勢朝次著。昭和13年岩波書店。江戸時代に入るまでの能楽史を、一次史料に基づいて、実証的かつ網羅的に考察する。散楽や翁猿楽など、能が発生する以前の猿楽の実態を解明し、大和猿楽の大夫から手猿楽に至るまでの役者について、個別的に考証するなど、内容は多岐にわたる。能楽史を考える上で不可欠の文献で、室町期の演能記録集としても有益。

『能楽盛衰記』

池内信嘉著。大正14年東京創元社。江戸時代から明治・大正に至る時期の能楽史を体系的にまとめる。江戸幕府の式楽としての能楽や、能楽の近代化を考える上で、最初に参照すべき文献。また、近世・近代の能楽史料も数多く引用しており、史料集としての利用価値も高い。

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伝書研究の基本文献
『風姿花伝』

世阿弥の能楽論を代表する伝書。年来稽古条々・物学条々・問答条々・神儀篇・奥義篇・花修・別紙口伝の全7編。習道論や演技論、能作論などの内容を持つ、総合的な能楽論書である。これは、生駒宝山寺蔵本(金春本)の複製本(講談社『世阿弥自筆 風姿花伝 至花道』所収。ただし、世阿弥の自筆ではない)。

『世子六十以後申楽談儀』

観世大夫を元雅に譲って出家した頃の世阿弥の聞書を、次男元能がまとめたもので、永享2年(1430)の奥書をもつ。観阿弥・犬王・増阿弥などの芸風や、田楽・猿楽諸座の歴史から、謡い方の心得や能作術にいたるまで、多面にわたる記事が収められ、観阿弥・世阿弥時代の猿楽界を知る上で重要。展示している部分は能の作者付で、世阿弥と観阿弥が作った曲が分かる(雄松堂書店『世子六十以後申楽談儀』の複製本)。

日本思想大系『世阿弥 禅竹』

表章・加藤周一校注。昭和49年岩波書店。『風姿花伝』『花鏡』など、世阿弥の伝書や書状21点を網羅。緻密な本文校訂を行い、詳細な頭注・補注・解題を付す。世阿弥伝書の注釈書として、最も信用できる。同時に、『明宿集』など、金春禅竹の代表的な伝書も載せる(頭注・補注はない)。

『金春古伝書集成』

表章・伊藤正義校注。昭和44年わんや書店。金春禅竹・金春禅鳳の全伝書など、大和猿楽四座の中で最も古い由緒を持つ、金春座に関する伝書や史料を翻刻。頭注・解題・索引などが詳細で、能楽伝書研究の水準を一気に引き上げた大著。

日本思想大系『古代中世芸術論』

林屋辰三郎ほか校注。昭和48年岩波書店。雅楽・田楽・能楽・茶・立花の伝書を翻刻する。能楽伝書は、金春禅鳳の談話集『禅鳳雑談』、室町末期の総合的能伝書『八帖花伝書』、江戸前期大蔵流の狂言伝書『わらんべ草』が収められている。

『能楽資料集成』

法政大学能楽研究所編。わんや書店(現在も刊行中)。室町末期以降の重要な資料を収めたもので、詳細な解説が付される。下間少進・金春安照・幸正能・観世宗節(『観世流古型付集』)といった著名な役者の伝書や、細川伝書・実鑑抄などの資料は、能の演出史研究に必須。ほかに江戸期の間狂言台本、役者付(『能之訓蒙図彙』)、謡注釈書(『法音抄』)などがある。

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謡曲研究の基本文献
『世阿弥自筆能本集』

表章監修・月曜会編。平成9年岩波書店。「能本」は能の台本のことで、後世素謡用に作られた「謡本」とは異なる。観世文庫および宝山寺所蔵の世阿弥自筆能本9点などを影印・翻刻。世阿弥の筆跡も興味深いが、役割や演出に関する注記や修正の跡などが見られる。世阿弥時代の能を研究する上で、最も基本となる資料。

『室町時代謡本集』

観世文庫。平成9年刊。観世宗家伝来謡本のうち、室町時代の古写本約百点を影印・翻刻。従来は容易に見られなかった謡本が公刊され、謡曲の本文批判がより正確に行えるようになった。

『謡本於裳佳介』

三上勝著。昭和7年刊。古い謡本(複製含む)の一頁を切り離した零葉を貼付し、謡本の体裁の変遷を視覚的にたどれるよう構成されている。展示している頁は、江戸初期の古活字謡本「光悦本」(嵯峨本とも呼ばれる)。雲母模様を刷り込んだ表紙と料紙は、美術的価値が高い。

『謡曲大観』

佐成謙太郎著。昭和5年明治書院。全7巻に236曲の謡曲を注釈。底本は現行観世流謡本を中心に、他流で補う。語注や現代語訳、間狂言のセリフも付される。別冊に曲舞、「能楽画譜」、索引、諸考察を含み、総合的な謡曲手引書ともなっている。

日本古典文学大系『謡曲集』

横道萬里雄・表章校注。昭和35年岩波書店。文学的側面に重きを置いた従来の語句注釈に加えて、小段理論を用い、音楽的側面からもアプローチした画期的な注釈書。現在の謡曲注釈は、同書の方法に拠るところが大きい。底本は曲ごとに異なり、基本的に最古本を用いる方針をとる。

日本古典集成『謡曲集』

伊藤正義校注。昭和58年新潮社。観世流で最も古い版行謡本「光悦本」(百番一揃い)を底本とする。頭注には、中世の古典注釈研究の成果が反映されており、現在の謡曲注釈書の水準を示す。巻末の各曲解題も詳しく、研究論文に匹敵する内容を有している。〔光悦本については『謡本於裳佳介』参照〕

日本古典全書『謡曲集』

田中允校注。昭和32年朝日新聞社。鳥飼道晰が出版した江戸初期の金春流謡本「車屋本」(現存71番)によっている。車屋本は最初の刊行謡本であり(1600-1601年刊)、後の下掛り各流謡本の元となった。現在活字化されている謡曲集は、観世流の詞章がほとんどであるだけに、この古典全書本は貴重である。

日本古典文学全集『謡曲集』

小山弘志・佐藤健一郎校注。昭和48年小学館(平成10年新版)。観世流『寛永卯月本』(1629年刊)などを底本とする。現代語訳などが付され、読みやすく工夫されている。

『鴻山文庫本の研究 -謡本の部-』

表章著。昭和40年わんや書店。故江島伊兵衛氏から法政大学能楽研究所に寄贈された同文庫のうち、江戸〜明治期に筆写・出版された膨大な量の謡本を整理分類した大著。現存する謡本のかなりの部分をカバーしており、謡本研究に資するところは大きい。

『古今謡曲解題』

丸岡桂著。大正8年(昭和59年西野春雄による補訂版刊行)。謡曲には、各流儀が所演曲と認めたもの(二百曲程度)の他にも、番外曲と呼ばれる非所演曲が多数存在する。本書はそれらを併せた二千五百余曲の梗概を簡潔に記したもので、番外曲研究をする際にまず参照したい。巻末の索引や「観世流謡本出版年譜」も有用。

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狂言の研究

「せりふ」による笑劇である狂言の研究に、せりふを記した台本が重要であることは自明だが、その固定は遅く、室町末期〜江戸前期にまで下る。江戸期の狂言方には、大蔵流、和泉流、鷺流の三流が存在し、流儀内でも複数の「派」に分かれていた。流派によって、筋立てや演出が異なることもあり、作品研究をする上では、それぞれの流派の台本を参照することが基本となる。

狂言台本は、室町〜江戸初期の話し言葉をとどめているとして、国語学からの関心も高く、数多くの研究がある。また、狂言の中で謡われる「狂言小歌」が、歌謡研究の側面から注目されている。

『人間国宝狂言師茂山千作-千五郎時代の舞台と素顔-』(平成6年柳原書店)

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狂言研究の基本文献
『岩波講座 能・狂言』Ⅴ「狂言の世界」

同シリーズは、全8巻のうち2巻を狂言にあて、この第5巻(小山弘志ほか著。平成元年)では、狂言の台本、歴史、作品の素材、間狂言等について考察している。また第7巻「狂言鑑賞案内」では、曲柄ごとに分類した作品180曲の概要を解説している。いずれも必読文献である。

『狂言古本二種』

古川久編。昭和39年わんや書店。天正6年(1578)奥書の「天正狂言本」は、筋書程度の記述ながら、狂言台本として現存最古のもので、103曲を収める。「大蔵虎清本」(通称「虎清本」)は、大蔵八右衛門清虎書写、大蔵道倫虎清校訂。正保3年(1646)の奥書を有する。大蔵流最古本であり、8曲を収める。これらの台本から、室町末期以後、狂言台本が固定してゆく様子を窺い知ることができる。なお「天正本」については、内山弘編『天正狂言本 本文・総索引・研究』(平成10年笠間書院)が刊行されている。

『天理図書館善本叢書 狂言六儀』

(同叢書刊行会編。昭和50年八木書店)

『天理本狂言六義』

(北川忠彦ほか校注。平成6年三弥井書店)

和泉流最古の台本(通称「天理本」)で、「虎清本」と同じ正保3年(1646)頃の書写。227曲を収める。台本には、せりふそのものではなく、筋書だけが記されており、台本が固定化する以前の狂言の姿が窺われる。狂言台本の変遷を探る上でも重要。

〔なお天理図書館善本叢書には、『鷺流狂言伝書 保教本』(享保9年〈1724〉以前鷺伝右衛門保教写)も収録されている。〕

新日本古典文学大系『狂言記』

橋本朝生・土井洋一校注。平成8年岩波書店。万治3年(1660)の刊。大蔵・和泉・鷺三流のいずれにも属さない詞章を持ち、江戸前期の京・奈良に存在した群小役者の台本らしい。絵入りで刊行されたことから、読み物としても享受されたが、上演台本としての内容も保たれている。なお本書には『狂言記』『外五十番』『続狂言記』『狂言記拾遺』が収録されている。

『大蔵家伝之書 古本能狂言』

(大蔵弥太郎編。昭和51年。全6冊)

『大蔵虎明本狂言集の研究 本文編』

(池田廣司・北原保雄校注 昭和47年表現社)

「大蔵虎明本」(通称「虎明本」)は、寛永19年(1642)大蔵弥右衛門虎明の書写。「脇狂言之類」「大名狂言類」などに分類し、237曲を収める。本文には、若干の筋書形式も存在するが、全体としては詳細にせりふを記す。国語学的にも注目されており、総索引も刊行されている(右参照)。

『大蔵虎明本狂言集総索引』

(北原保雄・村上昭子ほか編 昭和59年武蔵野書院)

『わらんべ草』

笹野堅校訂。昭和37年岩波書店。「虎明本」の筆者である大蔵虎明の狂言伝書。虎明自身の手で増補が重ねられ、数種の伝本が存在するが、この岩波文庫本は虎明自筆の万治三年本を底本とする。狂言の技術論的・精神論的記事の他に、同時代の役者達についての挿話が実名で豊富に載り、当時の能楽界を知る格好の資料でもある。

『古狂言台本の発達に関しての書誌的研究』

池田廣司著。昭和42年風間書房。前半部は、虎明本や天理本などの台本を用いた統計的な考察などが収録される。後半部は、資料の影印・翻刻と『狂言曲目所在一覧表』から成る。特に、後半部の一覧表は有益。

『狂言辞典』

古川久ほか編。昭和38〜60年東京堂。3巻。語彙の検索だけでなく、参考文献一覧、系図、資料紹介、曲目所在一覧なども収録し、狂言研究の強力な補助となる。

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