2006/06/16

食品加工学研究室

1.研究室の概要


研究室メンバーの集合写真

食品加工学研究室は,瀬口正晴教授,足田満吉教育助手,ポストドクター・林美穂,大学院・田原彩,神戸女子短期大学準助手・小澤美貴,神戸女子短期大学準助手・中村智恵子,研究生・森元直美,管理栄養士を目指す学生が主体の卒論生からなる。 ここでは小麦粉を中心とした加工食品,特にパン,ケーキ類を扱った研究をすすめている。 研究室にはブラベンダーアミログラフ,ファリノグラフ,エクソテンソグラフ,RVA,DSC,レオメーター,ファーモグラフ,カラーメーター等,発酵,ベーカリー関係用の機器類を完備している。 さらに同建物内にはパン加工室を有し,そこには足田満吉教育助手が常駐し,大型オーブン,ほいろ,モールダー,パイローラー等の本格的製パン施設をそろえている。 本学創立者・行吉哉女先生は神戸におけるパンの伝統を本学にも生かしたいというお気持ちをもたれ,このような他の大学にはない立派な設備をつくられ,前任の松本博先生は現在の製パン研究体制をつくられた。 パン加工室では家政学部の学生に製パン実習の授業を行ない,特に管理栄養士クラスの学生は将来,パンのや焼ける栄養士になれることを目指している。 本学にはこのパン加工室を中心にしたパンクラブがあり,学生メンバーは100名余に達し,新しいパンを試作研究している。 ここで生まれたパンは,神戸女子大学のパンとして数年前から日東富士製粉鰍フホームページ (http://www.nittofuji.com/),“食未来フォーラム”で定期的に全国に紹介されている。 このクラブは,当研究室とも密接な関係にある。

当研究室では製パンの科学を生化学的に研究し,パンの膨化のメカニズム解明等を研究している。 さらに各種食材を製パンに用いてパン高,比容積の改良効果のあるものの検索を行ない,その食材のもつ健康栄養的意義と製パン性が合致したときには健康パンとして工業的な利用も検討し,これまで各種のパテントを獲得し市販されているものもある。 鉄分を多く含むカルカデパンはネット上で確認でき,購入もできる (http://www.iqhands.com/karkade/)。 2005年度に行吉学園事業部と協力し,ベーカリー喫茶“マーベル”を学内に立ち上げた。 ここではパンクラブで人気のあった創作パンなどを中心に専門職職員によるおいしいパンを焼き,学生教職員のための食事,憩い場所としている。 さらに将来は本研究室で開発した健康パンを焼き,外部ヘインターネット,通販などを利用して販売する準備をすすめている。

2. 研究室の設立から現在までの変遷など

神戸女子大学は,家政学部,文学部,健康福祉学部の3学部からなる大学で,学生数3,600余名からなる。 本学園は昭和15年に神戸新装女学園として行吉哉女氏によって創立された学園である。 昭和41年には神戸女子大学(家政学部)を設置し,昭和42年に厚生大臣から栄養士養成施設として認可を受けた。 昭和43年にはさらに家政学部に管理栄養士養成課程の設置が許可され,昭和59年には家政学研究科食物栄養専攻(博士前期課程),平成元年には博士後期課程の設置が認可された。 現在家政学研究科は生活造形学専攻と食物栄養学専攻からなり,食物栄養学専攻は14名の専任教員によって構成されている。 その中で当研究室からはこれまで4名の学位取得者が生まれている。 平成5年“冷凍ドウの研究”,細見和子,平成13年“小麦粉の製パン性とドウレオロジーに及ぼす酢酸ガスとpHの影響について”林真千子,平成14年“ケーキ・パンの膨化に及ぼすデンプンの糊化性状の影響”楠瀬千春,平成17年“モチ小麦デンプン粒の高濃度KI/I2溶液による構造解析”林美穂である。 現在3名が学位を目指して研究を進めている。毎年数名博士前期課程の学生が在籍するが,卒業時には国際誌に投稿することをルール化している。

3. 現在の研究内容

小麦粉を用いたパン,ケーキ類の食品加工的研究を進めている。 パン,ケーキ類は何れも膨化食品であり,イースト,膨剤等から生じるガスをいかに小麦粉ドウ,バッターがキャッチし,これを逃がさずに膨化するかというメカニズムの解明研究である。 その成果は50数報にわたり国際誌上に報告済みである。気泡食品全体(ビール,アイスクリーム等)に関してもその組織形成のメカニズムについて文献上の調査をすすめ,数年間にわたり月刊専門誌Pain誌((社)日本パン技術研究所)に“気泡のサイエンス”として紹介している。

具体的な研究テーマとしては,大きく2つに分けている。

1)小麦デンプン粒構造の研究


ファリノグラフ試験中


顕微鏡観察中

小麦デンプン粒3次構造はほとんど不明であるが,その情報は小麦粉加工食品を製造する上で必要なものである。 特にデンプン粒糊化の不十分な食品ではデンプン粒表面構造は極めて大切である。 本研究室ではこれらの観点からデンプン粒内部の構造とともに粒表面の構造,特にタンパク質,脂質等の性質を調べる研究をすすめている。 その成果として粒表面タンパク質の重要性,特に乾熱処理デンプン粒表面の疎水化を見出している。 この親油性デンプンは前述のように腎臓病患者用パンの材料として利用された。昨年度,濃KI/I2溶液によるモチ小麦粉デンプン粒のゴースト化の研究から林美穂は学位を取得しており,目下ポスドクの道を歩んでいる。この仕事はモチ小麦デンプン粒構造の軟弱さを用いて巧みにウルチ小麦デンプン粒構造を調べたものであった。

2)小麦粉加工食品の研究

小麦粉加工食品の研究として大きく2つに分けている。

@薄力粉による加工食品の研究


食パン試験中

薄力小麦粉を用いた研究では,特に小麦粉の乾熱処理,及びエージングによるパンケーキやカステラの弾力性の変化の問題を検討している。小麦粉の不思議な点は,乾熱処理やエージングなどが大きくその小麦粉加工食品の物性を変化させる点である。特にパンケーキの弾力性の変化は顕著であり興味深い点である。永いことその原因は不明であったが,当研究室では小麦粉の酢酸分画法を確立し,小麦粉を水溶性区分,グルテン区分,プライムスターチ区分,テーリングス区分に分け,その区分間におこる相互作用と加工食品上に現れる弾力性等の改良効果とを結び付けて研究し,その改良メカニズムを少しずつ明らかにしてきた。特にこれまで原因不明のまま小麦粉のエージングをうまく利用してきたカステラの品質改良メカニズムの原因を,その各区分間の相互作用の観点から研究している。

A強力粉による加工食品の研究

強力小麦粉を用いた研究ではパン膨化メカニズムの研究を進めている。製パン性はパン高,比容積をパンの最重要要因と考え,これらに与える小麦粉成分の影響について検討し,パン膨化のメカニズムを調べている。特にその際,各種食材(ネギ,ニラ,ラッキョ等のネギ属,ハイビスカスの一種カルカデ,トリテケール(ライ小麦),マイタケ等)を小麦粉にブレンドして製パン試験を行ない,それらの示す製パン性改良効果から小麦粉成分との関係をしらべ,パン膨化の本質を検討している。その結果,ネギ属のもつジスルフィド類の重要性を明らかにしたり,pH調整により高鉄含量のカルカデパンの可能性を示したり,さらにトリテケールのα−アミラーゼ活性を用いた製パン性を確立した。また強力なマイタケプロテアーゼによる製パン性劣化を明らかにした。さらにこれまでの研究から見出された乾熱処理デンプン粒の示す強い親油性の性質(デンプン粒表面タンパク質の疎水性が原因)を用いて,低タンパク質高カロリーを必要とする腎臓病患者用のパン製造研究,セルロースを用いた糖尿病患者用低カロリーパンの開発研究にも成功しパテント化した。後者ではセルロース粒サイズと製パン性の関連性が重要であった。さらに難しいパンフレーバーの固定化の研究もすすめている。開発した健康パンにはカルカデパン(鉄補給パン),マイタケパン(抗がん用パン),トリテケールパン(アレルギーパン),ねぎ,ラッキョ,ニラ等ネギ属によるパン(元気パン),腎臓病パン(腎臓病患者用),糖尿病パン(肥満者用)等があり,生活習慣病を防ぐパンとして注目されている。

研究成果の食品産業での活用例としては,前述のように大学内のベーカリー喫茶として当研究室の仕事を社会還元している姿がある。本学園では「行吉学園・21世紀改革基本計画」の中で新規収益事業とし,研究を生かした起業化としてパン、(健康パン)の起業化をすすめた。これは将来さらに学外へも展開してゆく予定である。産官と連携した共同研究の状況としては,これまで京都府大学連携事業新政策形成研究会や農水省ムギブロジェクト等に参加し,共同研究を進めてきた。後者では変性粉の利用技術の開発,変性小麦粉のケーキ・パン類の品質改良メカニズムの解明をおこなった。当研究室への民間の研究者の受け入れも可能であり,これまでも日本水産褐、究所,日東富士製粉褐、究所等の若手研究者は数カ月間研究室に滞在し,主に小麦粉の酢酸分画法のテクニックを学んで帰っていった。前述のように大学食堂にマーベルというパン喫茶を作り,目下暗中模索的にすすめているが,今後の研究活動の展開や夢としては本格的な健康パンラインをつくり,場所をかえて工場レベルでの製パンを大学発で立ち上げて行きたい。

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