2025.09.15 教育学科
水野 邦太郎教授の専門分野は、英語教育学。特に、中学校・高校の英語教育、ICT・AI を活用した教授法の研究です。
この論文は、「なぜ、あの先生の英語の授業はこんなにも魅力的だったのか?」という問いに答えようとするものです。その鍵は、生徒が「わかった!」「楽しい!」と実感できる授業を生み出すための特別な知恵にあります。教育学ではこれを PCK(Pedagogical Content Knowledge:授業と学びを想定した教科内容の知識) と呼び、教師が教科内容をどのように工夫し、生徒に伝えるかを示す重要な概念とされています(Shulman, 1986; 1987)。
本研究では、兵庫県の中学校で長年英語を教え、英語教育界で最高の栄誉とされるパーマー賞を受賞された故・稲岡 章代先生の will 導入授業(2010年)を取り上げています。授業映像や、本学の学生がオンライン掲示板(Padlet)を通じて行った議論をもとに、稲岡先生が will の意味と使い方を生徒に理解させ、自分の表現として活用できるようにするために、どのように PCK をデザインし、授業を実践していたのかを明らかにしました。
さらに本論文では、優れた授業が生まれる背景にある教師の思考プロセスを示す Shulman のモデルも紹介しています。このモデルは、「教える教科内容を深く理解する → 自分が教える生徒に合わせて工夫する→ 実際に授業を行う → 授業の中で準備した授業内容・方法を自己評価する → 授業後に振り返る → 教師としての教科内容に対する理解が深まる」という教師の成長サイクルを示したもので、教育現場における理論と実践の橋渡しとなる枠組みです。
本研究は、教師教育において「理論と実践」をいかに結びつけるか、そして、どのようにすればすべての生徒にとって「理解できる」「学ぶのが楽しい」と感じられる授業を実現できるのかを考える上で、大きな示唆を与えるものです。
関連リンク